変容する社会と社会的弱者~持続可能な社会実現のために~

高度経済成長期を経て超少子高齢化社会を迎えた日本社会はその社会構造を大きく変容させ、社会的弱者が孤立しやすい状況を引き起こしている。

社会的弱者とそれを取り巻く関係について興味を持つには中学時代に感じた些細な疑問が関係している。高校受験の際に多くの友人は都立高校を志望していたのだが、家庭事情から私立高校の併願が難しいが為に本来受験できるはずの
志望校を変えなければならない状況が多く見受けられた。家庭内の問題である経済的問題は子どもの意志で改善させることは難しく理不尽に思えた。

そのような中、高校二年時のニュージランド(以下NZ)留学では社会や世界を見つめることができた。日本には世間体を重んじる文化があるうえ、自助努力が前提とされる社会であるため、差別や偏見を恐れいわゆる「普通の家族」に該当しない状況を言い難い傾向がある。一方でNZでは離婚や片親に対する意識は比較的寛容だった。NZ社会は移民が多い多文化共生社会であり意識的、無意識的にマイノリティや弱者を受け入れ、サポートをしていた。私はこの経験から個人と社会を取り巻く関係性ついて興味を持つようになった。

社会的弱者とコミュニティのあり方についてより深く学ぶため、帰国後私は社会福祉ゼミに所属した。私たちはゼミ内で高齢者福祉チームと児童福祉チームに分かれて活動をしたのだが、負の連鎖を断ち切るためには幼少期に行うアプローチが最重要と考え児童福祉に対する研究を主に行うことにした。一年間のゼミ活動のなかで自らの問題意識をより高めた経験の一つに児童養護施設聖友ホームでのボランティア及びフィールドワークが挙げられる。

学園の子どもの入所理由は、被虐待が約四割、保護者傷病(精神疾患等)が約3割となっている。保護者からの適切な養育を受けておらず、大きな困難を抱えた状態で入所してくる子どもは多い。(聖友ホーム事業計画書から一部抜粋)更に、学園長の話により虐待の発生する家庭には貧困問題や子ども自身、親が障害を持つなど円満な関係を築くにあたり障害となる要因が複雑に絡み合っていることが分かった。問題を抱える家庭に生まれた子どもは生まれつき不利な状況にあり貧困や虐待といった負の連鎖に巻き込まれる可能性が非常に高い。自助努力、自己責任が前提とされる社会ではあまりに理不尽ではないだろうか。

私は社会の理不尽に苦しめられる子どもに対する支援の現状を探るべく、ゼミの協働先である公益財団法人つなぐいのち基金を通し児童福祉関係のNPOに取材を行った。NPO団体には彼ら独自の視点から細やかな支援の実行や比較的迅速に個々のケースに対応できるという利点がある。

一方、私が訪れた合計二つの団体は共通して費用面と人材の確保の問題を抱えていた。つまり、民間団体の行う支援状況は持続可能性があるとはいえなかった。そこで私はNPOだけでなく行政にも取材に赴くことにした。子どもの貧困対策を全国に先駆けて行っている足立区では独自に「未来へつなぐあだちプロジェクト」を立ち上げ区内を対象とした調査をはじめ、様々な支援に取り組んでいる。先進地域として、NPOとの連携を強めるだけでなく都や国にも働きかけており、触発された自治体が徐々に増え貧困問題対策プロジェクトが各地で始動している。このように行政も積極的に支援に乗り出しているのにも関わらず貧困問題が解決に至っていない原因には家庭という最小コミュニティ内においてなされた支援を有効に活用できていないことにあると考えた。かつての日本は地域と家庭の繋がりが強く「社会で子どもを育てる」という意識が根付いていた。

しかし、現在は高度経済成長期や少子高齢化により核家族化や地域コミュニティの希薄化が進んだ。そのために家庭はより閉ざされたものとなり家庭内での問題は表面化しにくく、深刻化しやすくなった。一方で、時代の変化に伴う社会構造の変容に支援方法や社会制度が追いついておらず社会的弱者が孤立しやすくなっている。この解決のためには時代背景や現状を緻密な調査と分析による問題把握したうえでの新たな支援制度の実施及び社会構造の再構築が求められる。

一例として経済的困窮者になされている生活保護制度について言及したい。生活保護制度として現在行われているのは現金支給であり、用途は指定されているものの受給者の判断により活用されている。現金支給の利点としては個々のニーズに準じた活用ができることにある。しかしながら家庭内で運用が適切に行われない場合は子どもなど家庭というコミュニティ内での弱者にその支援が行き渡らないことがある。この点を改善するために私は生活基盤整備に対する支援としてバウチャー制度の導入を提案する。

既に大阪市などでは教育バウチャーが導入されているが、利用資格があるにも関わらず活用しない人が多いのが現状だ。教育に対し重要性を感じていない家庭や学校外教育に少しの費用もかけたくない家庭はその制度を利用しない傾向にあるからだ。一方で、住宅費や光熱費など生活に必ず関わるものであれば全ての経済的困窮者が有効に活用できる。更に現金でなくバウチャーという割引券での支援であるため不正受給の件数抑圧も見込めるだろう。

ここに挙げたものは貧困問題改善に対するひとつの例に過ぎない。これからは人と人や個人と社会を結びあわせるソーシャル・キャピタルの強化により一コミュニティに過剰な負担を負わせないことで弱者を孤立させない新たな社会が求められる。そこで、コミュニティの最小単位である家庭内トラブルの抑制に加え、家庭と地域、そして行政の連携による社会的弱者の擁護が行われることにより私の理想とする持続可能な社会の実現が可能だと確信する。