「仕事と家族 〜日本はなぜ働きづらく、生みにくいのか〜」を読んで

この本では立命館大学産業社会学部の教授であり、主に家族社会学について研究している著者が、時間的・空間的に広い視野から日本における「仕事と家族」のあり方を再考している。具体的には「大きな政府」を代表するスウェーデンや「小さな政府」を代表するアメリカを中心に、日本と男女の所得格差や出生率データを国際比較し、日本における女性の社会進出の現在地を示している。また、日本における女性の労働力参加が進んだ背景や日本的な働き方と少子化の関係を戦前まで遡り、歴史的に考察している。現在、社会全体で働き方改革やジェンダー平等が叫ばれている中で、より良い見通しや、根拠を持って議論する上でこの本は必要な知識を与えてくれるだろう。

 

私は本書を通して、日本において少子化が加速する原因や女性の社会進出がなかなか進まない原因を国際比較という横幅に広い視点や歴史的な縦幅の視点から考察することができた。その中でも特に興味深かったのが、著者がなぜ日本においては「家事は妻がやるもの」となるのかという問題に着目した点である。この問題に対して昔から続く性別分業態度の影響はもちろんあるだろうが、そもそも日本人はなぜ「家事は女性がやるものだ」という認識を強く持ってしまうのかという私の疑問に本書は的確な答えを出してくれた。

第一に著者が行った人々が家事負担について感じる不公平感に関する研究によると、客観的な不公平の度合いが同じでも、それを不公平と感じるかどうかは人や国によって異なるということだ。分析の結果、欧米諸国では家事負担が妻に偏ると妻は不公平感を表明しやすくなるが、日本などほとんど妻が家事を担っているような国では、妻が多く家事をしても不公平感が強まらないことがわかった。この結果は、人間が不満を感じる基準が、自分の周囲の状況に合わせて設定されてしまうことを示している。

また、日本では仮に共働きの夫婦がいたとしても「ともに家計を支える」という認識よりかは「妻の稼ぎは夫の稼ぎの補助」だという意識のほうが強く、そもそも公平に家事を分担するという発想が生まれづらい。これに対して私は、日本が真の「男女平等社会」を作るためには、学校教育や啓発活動を通じて公平な家事分担の基準を浸透させ、かつ女性が男性と同じように長期的なキャリアを確率させ、それに見合った所得を得ることができる労働環境の整備が必要であると考える。少子化を食い止め、貴重な女性の労働力を有効的に活用するためにも、政府は政策にジェンダーの視点を積極的に取り込んでいくことがより重要になるのではないだろうか。

仕事と家族 – 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』 中公新書 筒井淳也著